- 初版:2006-12-20
- 第2版:2007-02-09
- 第3版:2007-06-19
「ぱにぽにだっしゅ!?」化しすぎていて原作原理主義者の方から猛烈な非難がなされているらしい『ネギま!?』ですけれども、ちょっと1話から見直してみたら結構このアニメって兵器にこだわっているのかこだわっていないのかよくわからないアニメなんだよなーと思う点がいくつかあることに気付きました。具体的には7話と9話が中心になるんですが、「これはひどい」シーンと「これは潜在的なネタを狙ってる?」と考えさせられるシーンの両方があるアニメなんですよね。
というわけでせっかくなので『ネギま!?』に登場する兵器・火器について気付いた点を簡単にメモしておきたいと思います。もっとも、比較的深めの話題なので正直あまり面白い内容ではありません。まずはネット上で既に突っ込まれまくっていそうな7話のジオラマシーンについて。
なお、この記事はいろいろとそっち関係に詳しい友人らに監修を受けたうえで一応の長時間にわたる検証もしてあるのですが、誤りなどがあるかもしれません。「有識者」の方々のご指摘などをお待ちしています。
つーか個人的には私の嫁である明石裕奈がいつのまにか兵器オタになってしまっていたことが一番ショックでしたよ…
裕奈のティーガーⅠが初期型で、ツィメリットのない、鏡の国の戦車な件について
“前作”『ぱにぽにだっしゅ!』以来、どんなネタも完璧さと万全さを期してきたシリーズだというのにネタとしてもあまりにも適当な描写すぎると非難轟々のシーン。いや何がダメかって、このシーンは3重に間違っているんですよ。
ネギま!? #7 「あの、見えなくていいこともあると思うんですけど、見えた方がいいことっていうのもあると思うんです」 byさよ明日菜「裕奈すごーい! よく出来てるねー!」
裕奈「でしょー? このティーガーのツィンメリットコーティングに1週間もかかったんだよー」
えーっと……
ティーガーⅠ初期型にツィメリットですか?
1つめのおかしい点は、この戦車そのものとツィメリットの関係について。
この裕奈が製作した戦車は Pz.Kpfw."Tiger" Ausf.E というもので、第二次世界大戦当時にドイツ軍が使用した大変有名な重戦車の1つであり、世に名立たる「ティーガーⅠ」そのものであります。これがどのくらいすごいスーパー傑作戦車であるかについて説明すると長くなってしまいますので、詳しくはお近くの兵器話が得意なお友達に聞いてみていただければ間違いなくいらないことまで喋ってもらえるはずなのでそちらにお任せしたいと思いますが、最大 100mm 厚の装甲と 88mm Kwk36 L/56 砲を採用し、敵の攻撃をどんなに喰らおうと装甲を全然貫かせず、逆に無傷のままソヴィエトや米軍の戦車を超遠距離から余裕でぶち抜くことができる、中期以降のドイツ機甲部隊における花形パンツァーでした。
さて、ところでこの戦車には生産時期によって微妙な違いがあります。具体的には最初期型・初期型・中期型・後期型に分類することが出来、それぞれに若干の違いがあります。裕奈の作ったティーガーⅠはハッチが上部へ開いていること、ファイフェルフィルターが装備されていることからおそらく Erster タイプ(=初期型)だろうと判断できるのですが、実は初期型の場合は通常ツィメリットコーティングを施しません。
そもそもツィメリット (Zimmerit)1 というのは、ドイツ軍が開発した磁力吸着地雷の対策として「ドイツ軍が」使用した塗布物です。磁力吸着地雷というのはその名の通り磁力で敵の戦車にひっつくものなのですが、地雷といっても地面に置くものではなく、歩兵が敵戦車に肉薄攻撃を仕掛けて磁力によって敵戦車の装甲に貼り付け、成形炸薬(敵装甲に激突した際、爆発によってメタルジェットという液状化金属を敵装甲に高速で撃ち込むこと)で装甲を貫通して敵戦車を行動不能にする地雷のことです。ドイツ軍はこれを連合軍側がコピーしてきた場合を恐れ、その対策としてツィメリットを開発しました。これは硫酸バリウムやポリビニルアセテートなどを混合させたものを装甲表面に塗布することで、地雷を付けられそうになっても貼り付かずに滑り落とすことができるものです。成形炸薬は装甲に密着した状態でなければダメージを与えられないのでこれは有効な防御手段になるはずでしたが、実際にはバズーカや PIAT のような対戦車兵器の登場のために連合軍は使ってきませんでした。
しかし、ツィメリットの塗布命令が発令されたのは戦争後期である1943年9月からなのですが、このティーガーⅠの初期型の生産時期は1943年1月から1943年7月までです。つまりこの戦車が開発された時点ではツィメリットの塗布は行われておらず、それゆえ初期型はどの写真でもほとんど塗布されていないのが普通です。初期型に続いて中期型の生産が同年7月から開始されるのですが、ツィメリットの塗布が開始されたのはその中期型の生産も半ばを過ぎる頃からで、少なくとも生産時点で初期型にツィメリットが塗布された例というのは寡聞にして存じません。初期型にはツィメリットはついていないもので、裕奈のやっていることはいわゆるリアルじゃないからクソの扱いになるのです。
もちろん例外的に初期型にツィメリットを付けるという遊びもあるのでしょうが、ツィメリットを付けたいがためだけに初期型を後期型に改造する人がいる世界で、そんなリアルでない遊びをわざわざしたがるケースがどれだけあるかというとまず疑問です。裕奈の発言は全く不自然です。
砲塔右側面に履帯5本ですか?
2つめのおかしい点。
これは完全なミスだと考えられますが、この裕奈の作ったティーガーⅠの砲塔側面に装着されている予備履帯の数がおかしいです。
履帯というのはキャタピラのことで、これが戦闘や走行中にぶっ壊れたり外れてしまったりした際に現地ですぐに取り付けられるよう、この戦車の砲塔側面には予備の部品を取り付けていました。戦車にとってキャタピラは命綱で、片方が外れてしまうとその場で延々と回転運動を繰り返してしまい、動けず敵に対して優位な位置を取れなくなった戦車は敵の的になってしまいます。またこのティーガーⅠはなにしろ 56t もある重戦車でして、軽戦車のようにちょっとぶっ壊れたからといって他の戦車で無理矢理牽引することが出来ません。そのためにティーガーⅠは砲塔の側面にこの予備をつけることで、前線で履帯の剥離が起こってもすぐに修繕が出来るようになっていました。
ところが(有名な話なのですが)付けられる数が左右で異なるのです。というのも右側には側面開閉口があるので左側面と同じ数だけを付けることができないんですね。砲塔左側には5本付けられるのですが、右側面には通常2本(最大3本)しか付けられません。にもかかわらずこのティーガーは右側面に5本も付いているのは……なんてことはない、要は左右逆に描かれているんですね。これは左側面です。ですので本来右側面にあるはずの側面開閉口が描かれていません。
これはツィメリットですか?
最後3つめ。
裕奈は1週間かけてコーティングしたよーと言っているのですが、本当でしょうか。残念ながらこのジオラマの戦車はほぼ 1000% 間違いなくコーティングされていないと考えられます。なぜならツィメリットコーティングされた戦車に見られる独特の模様が入っていないからです。
さきほどツィメリットの説明をしましたが、実はこいつはそのまま塗布しただけで終わりではありません。そのままでは乾燥までに時間がかかりますし、敵の銃弾や榴弾が命中した際に衝撃で全部まとめて剥がれ落ちてしまいます。一撃で剥がれ落ちては防御装備として意味がありません。そこでどうするかというと、溝を掘ります。統一された模様を持つ溝を粘土質のツィメリットを入れるのです。大戦後期のドイツ軍の戦車の写真を見ると必ずといっていいほど装甲表面に凹凸が見えるのは、この剥落を防ぐための溝が表面にびっしり入っているためでして、一般的に「ツィメリットが~」という話をする際はこの溝そのものを指すこともあります。今回の場合、ティーガーⅠを製造したヘンシェル社の溝は横一直線の模様ですので、本来ならば横線模様がびっしり入らなければなりません。

ところが本編中ではぜんぶツルピカ装甲になっていまして、おそらく装甲板が剥き出しになっています。初期型の描写としては結果として妥当なものになっているのですが、その代わりに裕奈の発言は浮いてしまっています。1週間かけてどこをコーティングしたのか教えて欲しい。左側?
まとめ
というわけで裕奈のティーガーⅠはいくつもの間違いが重ねられてしまっています。 DVD での修正を要請したい点は以下の通り。
- ティーガーⅠを中期以降のものに変更するか、ツィメリットに関する裕奈のセリフ自体を変更
- ちゃんと右側の砲塔を描く
- ツィメリット特有の横縞模様を入れる
これが全部徹底されれば完璧です。少なくとも3だけでもいいですから修正して欲しいところです。ツィメリットでーすって言いながら模様のない戦車見せられても、スカートの下にジャージ穿いてる女の子と同じくらいの失望感があります。黒板に書きなぐる前に、ジオラマの設定のような細かい点にも気を使って欲しいなと思った次第。
ところで以上のような話題は、フツーの方からすれば「何をそんな細かいところを…」と思われる内容かもしれませんが、これはティーガーⅠを題材とするのであればベーシックな話題に過ぎないことですし、この間違え方は大変異常なものだったりします。なにしろ大して詳しいわけでもない私にすら「なんかおかしい」と気付かされる程度の話ですし、兵器ファンの友人に言わせれば「なんでこんな基本的な点からしておかしいんだろう。わざと狙っているとしか思えない」というほどのもので、実はこういうタイプのティーガーⅠがプロトタイプかなにかで実在するのではないか…と疑心暗鬼になってしまうほどのものです。
つーかパロディアニメがその源泉であるネタを間違っていたらどうしようもないわけでして、名誉ある本流ネタアニメである『ネギま!?』にとってこれは赤点ものなんじゃないのかなと思う次第。
おまけ:ジオラマの兵士の武器もおかしい
つーかそもそもこのジオラマは異常な設定で、ティーガーⅠなのに随伴している兵士が持っているのが M16A1 です。どう見てもドイツ軍を意識した軍服なのに周囲の兵士が現代のアメリカ軍が使っている武器ばかりを使っている異常なシチュエーションになっています。裕奈はなにをしたいんだろうと心配になるレベル。
これだけ見ると兵器へのこだわりなんかスタッフにはないんだろう、まあ確かに裕奈にそのままだと「ただのおっぱいキャラ」だから←原作設定のままだとキャラ的にアニメでネタにしづらいという意味であり、バカにする意図は全くなかったのですが、明らかに書き方が悪かったためお詫びして訂正しますインパクトのある後付設定が欲しかっただけなんだろうな…と思ってしまうところなのですが、実は真名が絡むと設定が急に引き締まって間違いがなくなるだけでなく、原作の設定をわずかにシフトさせるような細かいネタも見られたりします。というわけで余裕があれば今度、真名の銃の話もしたいかなと思ってます。
- 1. 裕奈は「ツィンメリット」と発音していますが、ドイツ語で Zimmerit を発音すると「ン」があまり入らないことから「ツィメリット」と表記することが多いです。もともと Zimmerit はドイツの Zimmer 社が開発したものですが、この Zimmer という単語は「部屋」という意味のドイツ語で、発音は(現代では)間違いなく「ツィマー」です。










Comment (コメント)
気持ち悪い
キモチワルイとか抜かしてやがるのは…ただの…ただの…なんだ?そのただのって!
戦車の事に関しましては私も少し不満に思いました…
今ではネギまもキッズの時間帯にやってるわけですな
やはり細かいことでも徹底して作ってほしいと思うのが自然ですな
“それなりの”適当な画面に、当たり障りのないセリフにしとけば
なんの問題もなかったんだけどねーw
基礎知識もないのに、通ぶったネタを披露しようとする
いわゆる「知ったかクン」状態な訳で、だからマニアに突っ込まれるw
通なネタをやるからには、キチンとやってこそ「通なネタ」な訳であって
そうでなければ「独りよがり」にもならない“失敗演出”に過ぎない・・・・って、
ひょっとしたらこれは、そーいう「超マニアックなボケ」ネタなんでしょうか?w
ツィンメリットよりはいいと思う
ただ、隊長さんも述べられていますが、『ネギま!?』は多様かつマニアックなネタで魅せるアニメなわけです。別に各々のネタで各方面のファンをすべて納得させる必要まではないでしょうが、ネタを誤って用いてそっちの知識を持つ人間に疑問を抱かせるような演出が妥当なはずはありませんし、少なくともここまで間違っているのを看過しろというのは心情的に難しいものがあることだけはご理解いただければと思います。
そもそも通りすがりのカンプフグルッペさんの仰る通り、兵器話を使うにしてももっとテキトーなネタで濁しておけばよかったわけで、特に「ツィメリット」という単語さえ出さなければ誰も突っ込まなかったはずです。
裕奈のセリフが「でしょー? 1週間もかかったんだよー」だったら、「これ砲塔が逆じゃんw」と笑い飛ばして終わるだけの“ネタ”だったでしょう。
本当にこの一言さえなければよかったのになーと思っている次第。
もっとも、作品の特性上、この誤りが実はこれはスタッフが幾重にも組み繋げたネタなんじゃないのか、あるいは(私や友人らもほとんど知識を持っていない)プラモデルの世界ではこういうネタが実はあったりするんじゃないのか――というような疑念は抱いています。
「超マニアックなボケ」であれば無粋な突っ込みになってしまいますし、実際にこういうネタが存在するなら大変申し訳ない話ですが、そうでないのならば私も“失敗演出”だと思います。
# 昨今のドイツ語では文末 er を英語と同じ発音で読むことが多いですので、
# かなり迷ったのですが、一応検討のうえ「ティーガー」にしました。ご了承いただければ。
ゆーなは自分も好きなキャラであるだけに製作スタッフには
このまま「中途半端」な娘にして欲しくないですね
すべて完璧にしろ!とは言いませんが、ネギま!?に完璧を求める・期待しちゃうのは
仕方ないことですから そういう意味でこの記事は好感が持てます
「間違った描写を大目に見る」ことが大事じゃないかと思いますよ、マジで。
ガンダムが好きな小学生に「2足歩行兵器なんて役に立たない(ry」って言ったところでキモイだけですよ
ン千万ドルの予算をジャンジャンつぎ込んだドキュメンタリー映画ならともかく、
単なるアニメにここまで突っ込むのはいかがなものかと
こだわるなら徹底してこだわれよ。
魔法先生ネギま!だったらどうでも良いですけど。ネギま!?ですから、こだわられるのも当然だと思います。
是非スタッフ、その他関係者の皆様に声が届きますように。
しかし私はどうでも良いので気にしません。ごめんなさい。
ネギま!?は分からないネタが沢山あったので勉強になりました。
私はネギま!?は見ていませんが、パロディーなら確かにしっかりやってほしいですね。
知ったかぶりはいけません。
1940年代と現代の兵器が併用されてるのも異常ですね。
「アニメ」と卑下にするヤツが許せない。
こんな記事をたくさん読みたいw
まさか履帯の数やツィメリットコーティングまで知ってるとは・・・・
自分もティーガーは大好きな戦車だがそこまではしらなんだ
確かに、横のモールドの入らないコーティングはティーガーⅠにはありますが、砲塔や車体側面では考えられない話です。
それと車体後部がやたらとすっきりしすぎです。プラモデル等でもわかりますが、ジャッキやジャッキ台等も車体後部に取り付けられているものが多いですから、このティーガーはいくらなんでもありえません。
俺なんか物理ヲタでもあるので、ウラン235の濃縮基本概念を悟ってしまいました。
嘘じゃないとこが困りもの。
火葬戦記でも現代兵器が登場してガンダム化する本がよくあるジャナイカ